◆IL DIVO◆ 27: 『楽譜の歴史』 近代記譜法 【近代譜】

≪毎日がコンサート本番!≫

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Music Gallery 4.Modern staff notation - 1.Modern staff notation
URL : http://papalin.yas.mu/W708/#M131

 
  ◇公開日: 2013年10月14日
  ◇演奏時間: 14分39秒
  ◇録音年月: 2013年10月
    上のアルファベットの曲目名をクリックして、
    Papalinの音楽室でお聴き下さい。





やっと到達しました、近代記譜法に。でもそのルーツは決して華々しくデビューしたものではありませんでした。47、48番に示した鍵盤譜がそのルーツなのですが、これらは皆川達夫さんの言葉を借りると、決して陽の当たらない特殊な譜法でした。ところが、17世紀初頭から突如として音楽史の表舞台に登場し、元は鍵盤楽器用の譜面でしたが、あらゆるジャンルで広く使用されることになりました。その優れた表現能力が評価されたというわけです。そしてこの記譜法は、今日なおもっとも国際的かつ普遍的な譜法として重用されています。

音の高さと長さの表示を最優先した近代記譜法の特徴は、あくまでもヨーロッパ音楽の発想です。非ヨーロッパ圏の音楽では、音の高さや長さよりも、半音以下の微細な音程の揺れとかアクセントとか音色とかがより重要な意味を持つことが少なくありません。また3度間隔に譜線をひくことも、3度の音程中心の旋律、3度間隔の協和を好むヨーロッパの発想であって、非ヨーロッパ圏の音楽には有用とは限りません。加えて、3度間隔で線をひくということは、他の手段(たとえば変化記号)で長3度と短3度を区別しなくてはならないという煩雑さも伴っています。近代記譜法が今日あるもっとも有用で表示能力の強い譜法であることは否めないとしても、そこに多くの制約と限界があることも確かです。

生まれた頃から、いわゆるヨーロッパ発祥の音楽に親しんできた私は、以上のことは随分と後になってから知りました。雅楽であっても、尺八の曲であっても、ガムランであっても、みんな五線紙に書けるものと思っていましたので、上に書いたことを知ったときにはショックでした。平たく言うと、五線紙に書けない音楽があることに目を丸くしたのです。



【61.オペラ「エウリディーチェ」プロローグ (ヤコポ・ペーリ作曲) (17世紀 イタリア)】

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1600年初演のヤコボ・ペリ(1561-1633)のオペラ<エウリディーチェ>のプロローグの楽譜です。歌手と、それを伴奏する器楽低音部とが、上下2段に記譜されています。器楽部には時おり数字や変化記号が添えられ、通奏低音部として機能しています。この楽譜は通奏低音部を明示した最古の資料の一つです(J.Peri, Le musiche, sopra L'Euridice)。

バロック音楽の特徴の一つが通奏低音の登場と言われますが、これもある日突然現れたものではないことは、過去のこの記事もしくは著書をご覧になればお分かりになると思います。楽譜の上ではそうした通奏低音という特徴を見い出すことができますが、私はバロック音楽の特徴は、"いびつな真珠"という言葉にもありますように、ルネサンス時代の精緻で整った音楽に疑問符をうち、人間の欲望に代表されるどろどろしたものとか、理屈ではない感情、それら決して清らかではないものを、音として表現しようとしたことにあると思っています。そういう意味で、バロック後期のヴィヴァルディやヘンデルやバッハではなく、バロック音楽が世の中に登場した頃の音楽に非常に惹かれます。作曲家でいうなら、カッチーニ、モンテヴェルディ、そしてこのペーリなどです。イタリアにこうした文化を生んだ人たちが登場したことに感謝したい気持ちです。

このヤコボ・ペリという作曲家の作品は初めて演奏したのえすが、このオペラ<エウリディーチェ>の冒頭のアリア、何と美しく切ないのでしょう。通奏低音をリアライゼーションした楽譜が見つかりましたので、リコーダー・アンサンブルで演奏してみましたが、やっぱりこれは歌でないと表現できない、歌ってみたいと切に感じました。




【62.麗しのアマリリ (ジュリオ・カッチーニ作曲) (17世紀 イタリア)】

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1601年出版のジュリオ・カッチーニ(c1545-1618)の<新音楽>の楽譜です。有名な<麗しのアマリリ>が、同じく通奏低音つきで記されています(D.Caccini, Le Nuove Musische)。

オペラを初めて作ったのは、モンテヴェルディかと思っていましたが、カッチーニの方が早かったということを知りました。上のペリも、早晩違わず、初期のオペラ作曲家だということですね。この3人のオペラのアリアは、どれも魅力的です。ここでは歌曲として<麗しのアマリリ>の楽譜が載せられています。イタリア歌曲集の楽譜には必ずと言っていいと思いますが、掲載されている有名な曲です。もう一度歌ってみようかと思いましたが、何故か先を急いだので、昔歌ったものを流用しました。今ならもう少し深みを伴った歌い方ができるかなとも思うのですが、五十歩百歩かもしれません。

楽譜についての感想を書きませんでしたが、近代記譜法の楽譜は、殆ど問題なく読めますね。ただベートーヴェンのような、演奏しながら瞬時に解読できない(つまり、読みにくい)楽譜は別ですけれど。(^_^;)




【63.オペラ「ロラン」 第2幕第1場 リトルネット (リュリ作曲) (17世紀 フランス)】

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イタリア出身でフランスで活躍したジャン・バティスト・リュリ(1632-1687)作曲のオペラ<ロラン>の第2幕の楽譜です。1685年に初演された作品ですが、ここに掲げたのは1709年刊行の第2版の楽譜です。まず器楽によるリトルネッロが先行し、最下段から歌手が歌い始めます。通奏低音記号には数字や変化記号が添えられています。舞台の情景を示す銅版画が美しいですね(G.B.Lully, Roland Tragedie mise en musique)。

リュリの音楽にも惹かれます。要は理屈抜きでただ好きだということなのですが。美しい楽譜です。8分音符の連桁も曲線で優しく描かれています。バッハの自筆譜を初めて見たときに、同じような印象を持ちましたが、もっと前にこうした美しい楽譜があったのですね。数字付き通奏低音のルールを考えた人も、偉業を成し遂げたものです。そしてそれを見て即興的に伴奏をつけていった通奏低音奏者も、そしてその通奏低音の上で華麗に装飾を施しながら演奏したソリストも、みんな素晴らしい!

複符点で演奏したかどうかはわかりませんが、私の趣味でそうさせて戴きました。




【64.ザルツブルク大聖堂祝典 53声ミサ キリエ(部分) (ビーバー作曲) (17世紀 オーストリア)】

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ザルツブルク大聖堂祝典のためのミサ曲のスコアです。<サンクトゥス>の結びの部分ですが、54段という膨大な楽譜です。この曲はかつてイタリアのオラツィオ・ペネヴォリ(1605-1672)が1628年のザルツブルク大聖堂献堂式のために作曲したといわれてきましたが、真相は17世紀後半のオーストリア系の作曲家による作品のようです(ザルツブルク カロリーノ・アウグステウム美術館所蔵)。

ペネヴォリは、この間違いによって音楽史に名を遺した人と言っては言い過ぎでしょうか。記述の中で「オーストリア系の作曲家」と書かれているのは、実際にはハインリヒ・イグナツ・フランツ・フォン・ビーバー(Heinrich Ignaz Franz von Biber, c1644-1704)ではないかと言われています。確証がないからこう書かれたのでしょうか。皆川達夫んさんが著書を書かれたのは1985年ですが、ビーバーの音楽が注目されるようになったのは割と最近なのですね。

さて、54段。つまり53声の合唱と通奏低音ということなのですが、これを多重録音する元気はありませんでした。やってできないことはないと思いますが、男声合唱だけで53声部というのを想像したときに、ちょっと目が眩みました。そこで、同じ<ザルツブルク大聖堂祝典 53声ミサ>のキリエの部分を歌うことにしました。こちらは聖歌隊は2つで、それぞれSATBのパートが2つに分かれます。すなわち全部で16声部。それに通奏低音が加わりますので、それでも17多重録音になります。実質8トラックのマルチ・トラック・レコーダーでバウンスを駆使して録音してみましたが如何でしょう。もちろん男声合唱です。




【65.クラブサン曲集2より アルマンド (シャンボニエール作曲) (17世紀 フランス)】

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1670年刊行されたフランスのジャック・シャンピオン・シャンボニエール(c1602-1672)の<クラブサン曲集>です。いかにもフランス的な雅な雰囲気の楽譜です。左手の第3線にヘ音記号がおかれていること、4分休符がカギ状の記号によること、右手の嬰記号がオクターブにわたっていること、以前クストス(次の行の最初の音を予告するカギ状の記号)が使用されていること以外は、今日の楽譜とほとんど相違はありません。ここに掲げたのはアルマンド舞曲で、頻繁に装飾音が付されています(J.C. de Chambonnieres, Les pieces de clavessan)。

これまた美しい楽譜です。私が最初に自分で書いた楽譜もこんな感じだったのででしょうか。3段論法におりますと、私が書いた楽譜は美しかった・・・となりますが、そういうことは意図していません。このままで何の問題もなく演奏できそうです。でも、折角ですので全曲を演奏してみたいと思いまして、IMSLPで楽譜を見つけました。いかにも鍵盤曲らしい、上からのグリッサンドに似た音の運びなどが典雅です。我が家に一時的に置かれているクラブサンで演奏してみたいと思いましたが、そう思っただけで実現には至りませんでした。しかしながら、リコーダー・コンソートでの演奏も悪くないと思っています。




【66.クラブサン奏法より 前奏曲第5番 (フランソワ・クープラン作曲) (18世紀 フランス)】

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1717年刊行のフランスのフランソワ・クープラン(1668-1733)の<クラブサン奏法>中の前奏曲第5番の楽譜です。右手のハ音記号、重複した調号、クストスの使用などがあるにしても、今日の楽譜とほとんど異なるところはありません。この書は教科書的性格も兼ねて、要所要所に指づかいが指示されています(F.Couprin, L'art de toucher le clavesin)。

一つ前のシャンボニエールの楽譜、そして楽曲も美しく優雅なものでしたが、こちらのクープランのそれらも同じことが言えます。こちらの曲は非常にロマンティックな香りもします。

クープランの指示通りに装飾することはできませんでしたけれど、こうした曲をリコーダー・コンソートで演奏することってどうなのでしょう。違和感を感じますか、それとも新たなジャンルの発見でしょうか。後者だと嬉しいのですが・・・。

楽譜は、IMSLP掲載の現代譜を用いて全曲を演奏しました。





楽譜は、音楽之友社のISBN4-276-38008-1 C0073を使用しました。



使用楽器

   ソプラニーノ      キュング         ローズウッド
   ソプラノ         モーレンハウエル   キンゼカー(メイプル)
   ソプラノ         モーレンハウエル   グラナディラ
   ソプラノ         フェール         パリサンダー
   アルト          モーレンハウエル   キンゼカー(メイプル)
   アルト          メック           オリーヴ
   テナー          モーレンハウエル   キンゼカー(メイプル)
   テナー          メック           ボックスウッド
   テナー          全音            チェリー
   バス           ヤマハ          メイプル
   グレートバス      キュング         メイプル
   コントラバス       キュング         メイプル

   チェンバロ       ギタルラ社        フレミッシュ・タイプ
   鍵盤ハーモニカ    鈴木楽器         メロディオン
   ギター          クラシック・ギター
   打楽器         大小ジャンベ、鐘等



Papalinの多重録音で、お聴き下さい。m(_ _)m



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この記事へのコメント

フク
2013年10月27日 12:55
やっと慣れ親しんだ譜面になってきました。
今の譜面になるまで、すごい歴史があったんですね。感動です。
演奏しててうまくいかなくても、譜面を恨んじゃ申し訳なく思えて来ました。
Papalin
2013年10月27日 14:29
◆◆ やっと慣れ親しんだ譜面になってきました。

フクさん、ありがとうございます。
本当ですね、ここまで約1600年の長い道のりでした。
ブログでの紹介はもう少し続きます。やっとバッハ! (^_^;)

> 譜面を恨んじゃ申し訳なく思えて来ました。

そうですね。私たちは、この上なく読みやすくて容易な楽譜を使わせて戴いているという気持ちになります。
 

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