◆IL DIVO◆ 14: 『楽譜の歴史』 定量譜 【白符定量譜】

≪毎日がコンサート本番!≫

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Music Gallery 2.Mensural notation - 6.White Mensural notation (15c.-)
URL : http://papalin.yas.mu/W708/#M116

 
  ◇公開日: 2013年10月12日
  ◇演奏時間: 15分48秒
  ◇録音年月: 2013年10月
    上のアルファベットの曲目名をクリックして、
    Papalinの音楽室でお聴き下さい。




それまでは黒潰しの音符だったのに、白抜きの音符が登場したのにも理由があります。色々な長さの音符、特に短い長さの音符をより読みやすく、正確に表記する手段として登場しました。同時に合理的な体系化も進んで、15世紀半ばから16世紀末にかけてのいわゆるルネサンスのポリフォニー音楽は、この白符定量記譜法を用いて書かれました。また、高価な羊皮紙に代わって紙が一般的となり、印刷技術の向上とあいまって、楽譜は比較的安価に入手できるようになったようです。その結果、音楽の国際的普及と交流が進みます。


【34.シャンソン (15世紀 ブリュッセル)】

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15世紀中ごろから、従来の黒符に代わって、白符を多用する定量譜が現れます。ここに掲げたのはシャンソン曲集で、ごく少人数の演奏者のための楽譜であることを物語っています。当時の有名なシャンソンの主旋律のみを記譜していて、他の声部は記されていません。これは1511年に筆写されたもので、細密画がことのほか美しく、また愛らしいですね(ブリュッセル 王立図書館所蔵)。

今でいうなら「うたほん」でしょうか。日本では野ばら社が古くからこうした歌の本を扱っていますね。旋律の楽譜と歌詞が書かれていて、中にはポケットサイズのものもあって、海や山へ携帯するのに良さそうです。そうしたものが1511年には既に存在していて、しかも立派な細密画が書かれているようなので、ちょっとポケットに突っこんでという感じではなかったかも知れません。でも、随分と敷居は低くなったことでしょう。

歌詞は読めませんでしたが、写真の譜例の左上の曲を演奏してみました。夫々の音符の長さを頭に入れれば、この歴史的な楽譜で十分演奏することができます。このシャンソン、柔らかな響きのする歌なので、バス・リコーダーのソロにぴったりだと感じました。




【36.めでたし、海の星 (ヨハネス・マルティーニ作曲)】

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フランドル楽派の作曲家ヨハネス・マルティーニ(c144-c1497)の作品をおさめています。上声部は上の5行、テノールは下3行で、次のページに続きます。青字に金で書かれ、欄外の細密画も美しいものです。上枠の中の人物は、旧約聖書に楽人の祖と記されたユバルです。大きさのちがった槌をたたいて、音の比率の法則を発見している姿が描かれています(フィレンツェ 国立図書館所蔵)。

次のページまでテノールの楽譜が続いているということなので、楽譜サイトで楽譜を探してみましたが、残念ながら見つかりませんでした。そこで、すでに演奏している聖歌<めでたし、海の星>(Hymnus: Ave Maria Stella)をここでも紹介させて戴くことにしました。偶然ですけれど、写真の譜例の曲の出だしとよく似た出だしの聖歌です。

マルティーニは、ルネサンス初期のフランドル楽派の作曲家ですが、音楽史上ではもう一時代前のブルゴーニュ楽派の伝統を重んじた人でもありました。そういうこともあって、当時としては決して最先端の音楽ではなかったと思います。この<めでたし、海の星>を聴いても、やや古い音楽に聴こえます。一方、彼は詩篇唱を初めて二重合唱のために交唱風に作曲した人で、それは時を隔てて、のちのバロック音楽以降のポリフォニー音楽の発展を活気付かせることになりました。そうした意味で、音楽史上に名を残した人とも言えます。

さてこの楽譜ですが、そのままタペストリーとして壁に飾りたいくらいです。音符が書かれた濃い青地の部分は、昔懐かしい木製の黒板を思い出させます。花をモティーフにあつらえた絵もゴージャスな感じがします。




【37.4声のカノン (バルトロメオ・ラモス・デ・パレーハ作曲)】

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これも前と同じ写本で、細密画の美しさに驚かされます。スペインのバルトロメオ・ラモス・デ・パレーハ(c1400-c1491)のカノンが記譜されています。東西南北の4人の風の神が息でそれぞれの声部の入りを示し、4声の無限カノンとして展開していきます(フィレンツェ 国立図書館所蔵)。

カノンだから円形の楽譜にしたのではなく、無限に続く音楽だから円形にしたのでしょう。4人の風の神が、それぞれの歌い手の入るタイミングを示しているなんて、何とおしゃれなのでしょう。

現代譜で楽譜が掲載されていたので、それを見て演奏しましたが、この円形の楽譜を見ながらでも演奏できそうです。私が学生だった頃は4人揃ったら麻雀でしたが、この時代の人は、4人揃ったらこんな素敵なカノンを合唱したのでしょうか。

一番上の風の神さまが平幕優勝を果たしたお相撲さんの旭天鵬に似ているなぁと感じたのは、きっと私だけでしょうね。(^_^;)




【38.ミサ・プロラツィオヌム キリエ (ヨハネス・オケゲム作曲)】

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フランドル楽派のヨハネス・オケゲム(c1425-c1495)が作曲した<ミサ・プロラツィオヌム>のキリエの楽譜です。2声部しか記譜されていませんが、各声部にそれぞれ2通りの異なったリズム記号(拍子記号)が付されていて、合計4声部となるのです。この時代の対位法技巧のひとつの頂点と言えるでしょう(ローマ ヴァチカン図書館所蔵)。

オケゲムの作品はかなり演奏していますが、こうしたトリッキーな作品とも出会いました。普通の対位法で多声音楽を作曲することでさえ私にはマジックに思えるのですが、しかも音価を倍にして歌っても見事な作品になってしまうというのは驚きです。後のバッハにしても、モーツァルトにしても、この時代の音楽、特に対位法に関して、じっくり対峙して学んだに違いありません。それだけ価値のあるものだと思います。現代譜が見つかりましたので、キリエ全曲を演奏しました。




【39.4声のシャンソン「サヴォアの羊飼い娘」 (ジョスカン・デ・プレ作曲)】

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最初の活字印刷楽譜です。1501年イタリアのペトルッチ(1466-1539)が出版した世俗歌曲集<オデカトン>で、5本の譜線と活字による音符とを別々に2重印刷しています。仕上がりは大変美しく、当時の印刷技術の高さを物語っています。このページには、ジョスカン・デ・プレ(c1440-1521)作曲の4声のシャンソン<サヴォアの羊飼い娘>が記譜されています(ハルモニーチェ・ムジチェス・オデカトン収録)。

ジョスカン・デ・プレとヨハネス・オケゲムの作品がよく登場するように感じましたけれど、気のせいでしょうか。まぁこの2人はフランドル楽派の子弟関係として、各々多くの素晴らしい音楽作品を残していることには変わりないので、その楽譜も写本や印刷譜として沢山残っているということなのでしょう。

印刷譜についてですが、今迄の私でしたら、印刷譜の究極の形である現代譜がベストと考えていたでしょうけれど、ヨーロッパ中世以降の楽譜を見てきますと、ここに来て(ペトルッチの印刷譜にたどり着いて)、何だか残念な気さえします。楽譜が演奏するための道具として機能を優先することによって、味気ないものになってしまったように感じます。この楽譜の"Tenor","Altus","Bassus"の文字は活字化も知れませんが、冒頭の飾り文字だけは手書きとして添えられていることが、せめてもの救いです。

全曲の楽譜が見つかりましたので、そちらを使って演奏しました。




【40.ミサ・アヴェ・マリス・ステラ キリエ (ジョスカン・デ・プレ作曲)】

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ここでも細密画が美しく描かれています。当時の楽譜とは、演奏のための実用品であるとともに、美術品であり、財宝でもあったのです。フランドル楽派のジョスカン・デ・プレ(c1440-1521)作曲の<ミサ・アヴェ・マリス・ステラ>(めでたし海の星)が、左にソプラノ(スペリウス)、テノール、右にアルト(アルトゥス)、バス(バッスス)と.声部別に記されています。1505年ごろスペインのフェリペⅠ世と妃フアナのために作製された楽譜で、右ページに夫妻の肖像が描かれています(ブリュッセル 王立図書館所蔵)。

これまた美しい楽譜です。私たちが想像する"楽譜"はモノクロの味気ないものですが、皆川達夫さんが仰るように、これは美術品であり、家具などと同列かあるいはそれ以上の財宝でもあったのでしょう。機能としての楽譜も丁寧に大きく、かつ分かり易く描かれていると思います。結婚式やお誕生日の祝いに、こんな"楽譜"をプレゼントで戴いたら、さぞかし喜ばれるのではないかと、新たな音楽系ビジネスをちょっと想像してしまいました。

ジョスカン・デ・プレのこの曲は、彼が確立したといわれる、特定の主題(動機)を各声部に展開する通模倣様式の曲だと思います。見事なポリフォニーですね。さすが、フランドル楽派の最高峰に位置すると言われる作曲家です。




【41.カノン (ルードヴィヒ・ゼンフル作曲)】

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この時代にはリズムの比率変化(プロポルツィオ)を表示する記号が、複雑多様に使用されていました。ここに引用した楽譜は、スイス出身の音楽理論家グラレアヌス(1488-1563)がその著<ドデカコルドン>(1547刊)に掲げたもので、スイスの音楽家ルードヴィヒ・ゼンフル(c1490-1543)作曲のカノンです。3種の記号によって、ひとつの旋律から各声部それぞれリズムの異なった3声カノンが展開して行きます。前のオケゲムのミサ曲と類似したアイディアです(ドデカコルドン収録)。

ルネサンス時代の音楽の一つ前は、アルス・ノーヴァや、トレチェント音楽、アルス・スブティリオルと呼ばれる中世の難解な音楽の時代でした。それらの時代には、作曲上の技巧の追及が学問として価値があり、評価された時代でしたけれど、続くルネサンスの時代は、人間の感情がそのまま音として現れるもとなりました。音楽においてのルネサンスとは、ギリシア、ローマの古典文化を復興したということから「再生」「復活」という意味で使われますが、このルネサンス時代のゼンフルの作品や、前のオケゲムのミサ曲も、技術的には技巧を駆使していた前時代的な作品でもあります。しかし、音が柔らかいと言いますか、穏やかですね。まだ中世の音楽として括られた時代の音楽とは、その違いを耳で感じ取ることができます。

楽譜が見つからなかったので、著書に現代譜として掲載された6小節のみの演奏です。写真の楽譜を見て、そのまま演奏できなくもないと思ったのですが、楽をしてしまいました。(^_^;)




【42.コラール「神はわがやぐら」 (マルティン・ルター作曲)】

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16世紀は宗教改革の世紀でもありました。新しい教会はその教理にふさわしい新しい教会音楽の伝統をつくりあげていきました。ここに掲げたのはドイツ福音教会の代表的なコラール<神はわがやぐら>の印刷楽譜です。その上には改革者マルティン・ルター(1483-1546)の名が、はっきりと記されています。1533年出版の曲集中のものです(Geistliche Lieder:讃美歌集収録)。

バッハのアレンジでも有名なこの<神はわがやぐら>は、マルティン・ルターの作曲によるものだったのですね。写真の楽譜を見てそのまま演奏してみましたが、コラールに編曲されたルターのものとされる楽譜が見つかったので、それも演奏してみました。後者の楽譜は解説がなく、素性がはっきりしないので、参考演奏ということになります。仮にこれはバッハのアレンジだと言われても、私には区別できません。




【44.4声のシャンソン Mort m'a prive (トマス・クレキョーン)】

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13世紀以降、多声楽曲は1枚の楽譜の上に声部別に記譜されるのが普通でした。しかし16世紀になりますと、声部ごとにそれぞれ異なった楽譜に分冊されて記譜することも行われました。ここに掲げたトマス・クレキョーン(?-c1557)作曲の4声のシャンソンは、4冊の本にそれぞれ別々に印刷されています。4人の歌手がそれぞれ自分の声部の本を持って歌ったのです(1543年 アントワープ出版の曲集収録)。

歌詞の冒頭の単語の1文字目を絵にして楽譜にするという伝統は、この印刷譜でも守られていたのでしょう。そしてこの写真は、4冊の分冊で同じ曲のページを開いて撮ったのものだと思いますが、それぞれ同じ絵文字が使われています。作曲はスコアの形で行ったと思うのですが、演奏する(歌う)という実践面を考慮すると、パート譜が好ましい時代だったのでしょう。現代ですと、合唱曲の場合、例えば伴奏がオーケストラであっても、その部分はピアノ譜にして、いわゆる「合唱用スコア」で歌うことが多いのですが、この時代はそうは言っても紙も貴重なものであったでしょうから、パート譜集が一般的だったと思われます。左上のスペリウス(ソプラノ)の楽譜の1段目最後のところに、第6線が臨時的に登場しているのが面白いです。ハ音記号の位置をずらして、5線の中に収まるように書くのが当時の習慣でしたが、この曲のスペリウスのパートは、仮にもう1段ハ音記号を下げても、今度は下側に加線が必要になるので、どちらでも同じということだったのでしょう。




【45.我が思いは希望の翼 (ジョン・ダウランド)】

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イギリスのジョン・ダウランド(1562-1626)作曲のリュート伴奏つきが曲の楽譜です。ソプラノ(歌)とリュート奏法譜が下向き、テノールも下向き、バスは右向き、アルトは逆向きというように、声部別に向きを変えて記譜されています。テーブルの上に置いた楽譜を、とりかこんで演奏するための楽譜です。当時のイギリスの紳士淑女たちが奏楽をたのしんでいる姿が目に見えるようです(The First Booke of Songs or Ayres, 1597 収録)。

これこそ、実用的な楽譜と言えるでしょう。リュート伴奏者とソプラノ歌手は並んで演奏したという姿も、この楽譜から実証されます。あまり関係ありませんが、今でも向かい合って2重奏を演奏するための専用の譜面台というのもあります。2本の譜面台が背中合わせにくっついたような形をしています。それも実用性を考慮したものと言えるでしょう。

ダウランドの歌曲とあらば、せめて旋律だけでも歌いたい・・・そう思うのは自然でしょうか。




楽譜は、音楽之友社のISBN4-276-38008-1 C0073を使用しました。



使用楽器

   ソプラニーノ      キュング         ローズウッド
   ソプラノ         モーレンハウエル   キンゼカー(メイプル)
   ソプラノ         モーレンハウエル   グラナディラ
   ソプラノ         フェール         パリサンダー
   アルト          モーレンハウエル   キンゼカー(メイプル)
   アルト          メック           オリーヴ
   テナー          モーレンハウエル   キンゼカー(メイプル)
   テナー          メック           ボックスウッド
   テナー          全音            チェリー
   バス           ヤマハ          メイプル
   グレートバス      キュング         メイプル
   コントラバス       キュング         メイプル

   チェンバロ       ギタルラ社        フレミッシュ・タイプ
   ギター          クラシック・ギター
   打楽器         大小ジャンベ、鐘等



Papalinの多重録音で、お聴き下さい。m(_ _)m



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