《本のレビュー》 『諏訪のでんせつ』 竹村良信 著 その2

「御神渡り」
諏訪湖で見られる神秘的な景色。

温泉と御神渡り

 遠い昔の諏訪は、とっても住みにくいところでした。
 何でも、いたるところジャングルのような藪が茂っていたり、猛獣や毒蛇などがのさばり、人間なんかとうてい住めないところのようでした。
 こんなひどい諏訪を、今のように大変暮らしよい諏訪の元を造って下さったのが、お明神さまのタテミナカタノミコト(諏訪市中州神宮寺 諏訪神社上社)と、女神のヤサカトメノミコト(下諏訪町 諏訪神社下社)だといわれています。

 お明神さまはとても立派な方でした。見上げるような高い背、頭の毛をみずらに玉に巻き、真っ白い麻の服を着て、首には青や紫の玉をつけていました。じっと澄んだまなこ、その姿のおおしさ・・・・・・若い人も年とった人も、誰もが息を飲んで引き込まれるような方でした。
 奥さんのヤサカトメノミコトも、この上ない美しい方でした。長い黒髪を真ん中でわけて背中に垂らし、山吹の花を巻き、真っ白い服にもえるような赤い帯を結んで垂らしました。首には首玉、耳に耳飾り、手には手玉をつけ、雪のように白い肌・・・・・・まるで湖の精のような美しさ。また、奥山の女神のように奥ゆかしい方でした。

 この二人の神さまは、家来の神さまと力を合わせて、荒れ果てた土地を切り開き、稲や粟などを植えさせ、まきばを作って馬を飼わせ、また丸木舟をこしらえさせて、魚の獲り方を知らせたりしました。それから桑の育て方、蚕の飼い方、機織りなどを伝えました。
 このような苦労のおかげで、諏訪は寒い国ではあっても、海の幸や山の幸に恵まれて住みよい楽園になりました。
 その上、二人の神さまは仲良く暮らし、この諏訪の地はいよいよ明るく、楽しい平和な国となりました。

 ところがあるとき二人の神さまは、ちょっとのことで大喧嘩をしてしまいました。
「私、出て行くわ。」
 女神は怒って御殿を飛び出しました。そして色々日常使うものと一緒に、お化粧のお湯を綿に浸し、湯玉にして出ました。
 神宮寺の岸から舟にお乗りになり、どんどん舟を漕ぎ出し、湖の北の下諏訪にさっさと移って住みました。
 ところが、慌てたので途中綿に湿したお化粧のお湯の雫が、ぽたりぽたりと、ところどころへ落ちました。
 するとどうでしょうか。この雫の落ちた土の中からあっつい水---温泉が吹き出したのです。

画像


 今、神宮寺から点々と一直線に下諏訪まで温泉が湧き出ているのがそれです。飯島や赤羽は、ぽつりと一滴しか落ちなかったのでぬるく湧き、たらたらとこぼした田宿、湯の脇、大和、高木かたは、あったかいお湯が湧きました。
 また、綿を置いて休んだところ---小和田からは、どくどくと沢山のお湯が出ました。下諏訪におつきになって綿を捨てたとこが綿の湯で、ここが最も多く、しかもあっついお湯が湧き出ました。

 さて、女神に出て行かれたお明神さまは神宮寺に残って仕事の指図をしていました。
 でも、冬になると仕事がなくなり、女神に会いたくてたまらなくなりました。
 見ると、諏訪湖一面に厚い氷が覆っていました。向こう岸の下諏訪がぼうっと見えました。
「そうだ。氷を渡って女神に会いに行こう。」
 お明神さまは、真夜中、どんどん氷の原っぱを走って渡りました。
「ダダダダ・・・・・・ガアーン。」
 ものすごい大きな音がして、厚い氷が裂けました。
 次の朝見ると、小高く盛り上がった山脈が、お明神さまの通った神宮寺から、ずうっと諏訪湖の真ん中を横切って、下諏訪の女神のところまで続いていました。

 二人の神さまは仲直りをしました。そして、お明神さまは冬の間は女神と過ごしました。
 それからあと、毎年冬になって諏訪湖が凍って、四、五日経つと、お明神さまは氷の原っぱを渡って女神に会いに行きました。すると、やはり通ったあとに、氷の山脈ができました。
「御神渡りだ。お明神さまがお渡りになった。」
 と、諏訪の人たちは言い合って拝みました。
「それじゃ、おらあたちも、氷に乗るか。」
 と、それまで氷に乗らなかった諏訪の人たちは、御神渡りが済んだので、氷に乗りました。
 そして、春になると氷の山脈もいつかなくなり、白一色だった湖の上に、周りの若緑が映りました。
「おお、お明神さまがお帰りになった。」
 と、諏訪の人たちは語り合いました。
 今でも冬になり、諏訪湖が一面に凍って、四、五日経つと、御神渡りがあります。
 そして、この御神渡りによって、その年の農作物のとれ具合を占いました。氷の山脈が東の方、上諏訪側に寄っておれば豊作だといわれ、西の方、岡谷側であれば、とれないといわれています。


昨日に続いて、レビューのコーナー

決して超常現象でも何でもないのですが、湖の氷が凍って、ぐ~っバキバキという音と共に1m近くも氷がせり上がる現象を見たり聞いたりしますと、やはり神がかりに思ってしまいますのは、昔の人だけではないと思います。近年の温暖化現象で、諏訪湖の御神渡りもやがて伝説のものとなってしまうのでしょうか。私たちの子孫は諏訪湖の御神渡りを見ることができないのでしょうか。

実はこの話、続編があります。諏訪市の上社は一つだけですが、下諏訪町の下社は二つあります。秋宮と春宮ということ、そして、この伝説に出てきた --- お明神さまは冬の間は女神と過ごしました。 --- というのが味噌なのですが、善良なお子ちゃまのための本としてはさすがにそのお話は書けなかったようです。

もしもあなたが、そこまでお知りになって諏訪を旅され、地元の人にお話されましたら、ちょっと"つわもの"だと思われるかもしれません。

                               2007.03.09 Papalin




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この記事へのコメント

2007年03月10日 07:19
おはようございます。

今年の諏訪湖は一冬の間ずっと波を立てたままでしたね。
この御神渡りによってその年の吉兆を占う、八剣神社の神事も今年は行われないままでした。
 この何日か朝晩は氷点下と急に寒くはなりましたが、日中はぽかぽかのすっかり「春気分」。
さて今年はどうなりますことやら・・・
夏は猛暑、などということがありませんように。

2007年03月10日 07:51
◆◆ 八剣神社の神事も... aostaさん

そうですね。ここ十年くらいを振り返ってみますと、神事を執り行えた年の割合は、イチローの打率以下ではないでしょうか。そのうち御神渡り自体を拝めたら豊作・・・なんてなったりしてね。(笑)
2007年03月11日 06:55
天気予報どおり、今朝は大雪です!

まだ、降ってます(泣)!
「舞う」のではなく、なんだか雨が降るみたいに
重力のまま「落ちてくる」感じ。
春の雪ですもの重いの仕方ないのでしょうが、それにしても・・・
すでに、20cm以上は積もってます。
この冬最後の大雪、日曜日でよかったのか悪かったのか、せめて早いうちに日が出て融けてくれますように。
2007年03月11日 23:57
◆◆ この冬最後の大雪... aostaさん

来ましたね、春の神雪が。
20cmありましたね。
腰痛の私には、過酷な雪でした。
でも、お昼前には青空に。
でも寒かったです。
sakura
2007年03月13日 21:58
こんばんは。
雪もう降らないと思っていたのに油断できませんね。
積もってもその日のうちに消えましたが そのあと寒さが戻っていますね。
腰痛お大事になさってください。
2007年03月13日 22:51
◆◆ その日のうちに消えました...

sakuraさん、
ガクーン
( ¨)( ‥)( ..)( __)

消えなかったよ、こっちは。
.・゜゜・(/。\)・゜゜・.

お見舞い、ありがとうです。
ドンピシャです。
寒いと痛みが強くての~。

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