《本のレビュー》 『諏訪のでんせつ』 竹村良信 著 その1

きっと35年振りくらいに読んだ。
著者は父の幼なじみ。息子さんはフルート吹きで先輩。

八ヶ岳と富士山

 ずっと、ずっと大昔のお話です。
 八ヶ岳が浅間山のように、もうもうと煙を吐き出していた頃のことです。
 そのころは富士山もやはり、もくもくと煙を吐いていました。
 富士山は女の神さまですが、たいそう威張ることが好きでした。
 いつも周りの山やまに向かっては、
「見たところ、私が日本一高い山のようですね。・・・・・・雨でも、雪でも自由に降らすことができますよ、えへん。」
 と、高い鼻をツーンとさせて、得意になって自慢していました。

 ある日のことです。いつものように雲の上から、
「えへん。私は日本一高いですよ。」
 と、いい気分になって言いふらしていました。
すると突然遠くから、
「日本で一番高いのは、このわしじゃ。」
 と、ご太い声が飛んで来ました。
 -- まあ、失礼な。一体誰でしょう。-- 富士山は、その声がする北のかなたを見透かしました。
 それは、雲の上へちょこんと頭を出している八ヶ岳の神さまでした。
「まあ八ヶ岳の神さま、何を仰るの。私が日本一高い山に決まっているじゃありませんか。」
 富士山は、ぐっと背伸びして言いました。
「いやいや、とんでもない、わしが日本で一番高い山だ。」
八ヶ岳も負けずに肩をいからせて言い返しました。
「いいえ、私です。」
「いや、わしじゃ。」
 富士山と八ヶ岳は、お互いに自分の方が高いんだと言い合って一歩も引きません。顔を真っ赤にして、ぐっと睨み合ったままです。

 こんなことが、五年も、十年も続きました。
 この様子をご覧になった、阿弥陀如来さまは、
「神さま同士が争いをするなんて、本当に困ったものだ。」
と、顔をしかめました。
 何かいい知恵はないものかと、幾日も考えました。
 -- ああそうだ、これはよいぞ。--
 阿弥陀如来さまは、ポンと手を打ちました。
 それは、富士山から八ヶ岳まで、長いトイをかけて、水を流すのです。水は正直ですから少しでも低い方へ流れます。そっちの山の方が低いことに決まります。
 早速、阿弥陀如来さまは、トイを作り始めました。長いトイですから、何日もかかってやっとのことで仕上げました。

 トイは、富士山のてっぺんから、はるか彼方の八ヶ岳のてん峰まで架けられました。まるで一本の橋のようです。
 さあいよいよ水を流す番です。富士山と八ヶ岳の神様は、じーっと見守りました。
 阿弥陀如来さまは、トイの真ん中から静かに水を落としました。
 さあて、水はどっちへ流れるでしょうか。・・・・・・
 あっ!水はピシャ、ピシャと音を立てて、どんどん富士山の方へ流れて行きました。富士山が低いことが、はっきりしました。

画像


 さあ、大変です。富士山は黙っていません。
「そんなことがあるもんですか・・・・・・。」
 髪を振り乱し、カンカンに怒りました。
 富士山は、女の神さまですが、負けず嫌いでした。
「ああ、悔しい!。」
 いきなり、ありったけの力で、八ヶ岳を蹴飛ばしました。
 ガアーン!
 天も地も、壊れてしまったかと思われるほどの、ものすごい音がしました。
 さあ、それから後、えらいことになってしまったのです。
 ザア、ザア、ザア、ザア。ガラ、ガラ、ガラ、ガラ。
 八ヶ岳が、頂上から崩れ落ちました。何日も続いて、やっと止まりました。
 そのために、八ヶ岳は八つにさけて、富士山より低くなりました。



これだけだとレビューになってないので、翌日補記。

私が生まれ育ち、今こうして暮らしている諏訪地域には、こうした伝説が沢山ある。それらが著者の取材によって聞き集められ、31編のお話としてまとめられている。地域としては、茅野市、諏訪市、下諏訪町、岡谷市が殆どであるので、原村、富士見町を加えたら、もっと沢山のお話になったろう。それにしても、小さい頃に郷土に触れるにはもってこいの本である。ちなみにAmazon.comでは扱っていない本のため、ここで紹介させて戴いた。

この『八ヶ岳と富士山』は冒頭に登場するお話で、誰もが読んでいるに違いない。そしてこの挿絵がまた何ともいえない郷愁を誘う。殊にこのお話に添えられている挿絵は、いやがおうにも、子供たちの想像力を強烈にかきたて、そして強大な何かを彼らに植え付けていった。大昔のお話なのに、どうして裃と和服姿なのか、相当長いはずのトイなのに、途中に支柱は要らないのかなどと、幼い中にも疑問はあったが、それらは、日本を象徴する題材として用いられたのであり、焦点をぼかさないために不要なものは引き算したということだろう。

八ヶ岳の男の神さまの絵がさほどインパクトがないのに対して、女神である富士山はどうだろう。VOGUEのファッション誌から飛び出してきたかような、近現代的な斬新な髪型。いかにもきつい性格といった感じの表情。そしてそれは顔だけに留まらず、手、足の表情にも及ぶ。こうして純朴な少年の中に、恐ーいお姉さまたちの像が確かに植えつけられて来たのである。

それにしても、雄大なビッグスケールのお話である。諏訪地方とは切っても切れない象徴的な八ヶ岳の敗北。これを、譲ったと見るか、いつの日かと思うか、はたまた由来とかルーツに拘る諏訪気質の映しと見るか、それは人それぞれだろう。

                               2007.03.09 Papalin




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この記事へのコメント

sakura
2007年03月08日 21:23
こんばんは。
そちらはこのほかにも諏訪湖の御神渡りだとか 民話が多く残されているところなんじゃないでしょうか。
このお話もそうですけど出てくる神様が人間味あふれていますよね。やはり女性は怒らせると怖いってことでしょうか 笑。
2007年03月08日 21:48
楽しいお話ですね。
お山の当人同士はそんなことは言っていられませんね。

拝読していて、先日の軽井沢を思い出しました。
私が”ほら~富士山、富士山、きれい~見て~!!”と大きくて、真っ白な山を見まして、大騒ぎ・・・。

しばらくしまして、それが浅間山だと気づきました。

お恥ずかしいです。
beingreen
2007年03月08日 22:36
以前すんでいた町に「せくらべ公園」というのがあって、ちょっとした小山から長いローラー滑り台がありました。
昔から、女の人は元気だったというお話しですね。
2007年03月08日 22:46
Paparinさん♪
昔話、暖かくなります。面白い。
神様が喧嘩するなんて~富士山の女性の
神様は強い~女性はいつの時代も強い。♪
2007年03月08日 23:01
◆◆ 諏訪湖の御神渡り... Sakuraさん

仰る通りです。沢山の民話、伝説が残っています。山があって、湖があって、絶好の伝説ロケーションかもしれません。御神渡り(おみわたり)のお話も、いつか紹介しますね。

人間味溢れているのは、登場する神さまだけでなく、人間も人間味溢れています。そういうのを読んで育ってきた子供は、やっぱり忘れないと思います。
2007年03月08日 23:06
◆◆ 浅間山だと気づきました... Sienaさん

地図が全然頭にな人って、羨ましいです。僕もまぁ知らないところでは同じようなものですが。(笑)

浅間も、頂上からなだらかな傾斜が続いて、雪をいただいた姿は美しいですよね。富士山だと思われたのも、わからなくもない・・・こともないようです。(困)
2007年03月08日 23:11
◆◆ 女の人は元気... beingreenさん

そうですね。(笑)

日本の地理を勉強する前から、こうした郷土の民話や伝説を読んでいますと、すっかりスリコミが出来上がります。富士山は今見ても気位の高い女性に見えるし、八ヶ岳はやっぱりバンカラな男性に思えます。

せくらべ公園・・・・・面白い名ですね。
2007年03月08日 23:15
◆◆ いつの時代も強い... ソナチネさん

それは医学的にも言えることのようですよ。出産する性と、そうでない性の違いだとか、男性の性染色体のYは、Xの足が一本欠けているから生命力が弱いとか。

そうそう、大手術の前に、怖気づくのは男性の方が圧倒的に多いとか。でも女性もある職業にはそういう傾向があるって。それは、女医と看護師と教師ですって。ホントかな?
2007年03月09日 06:55
『諏訪のでんせつ』
読みました、読みました(笑顔)!
今でも本棚のどこかに眠っているはずです。
「信濃教育会」の編集だったかしら?
「大泉山、小泉山」のお話、あのデーラボッチが活躍するお話でした。
恋する若者の裏切りのために命を落とした乙女と小坂観音に因んだ物語などもありましたっけ。

諏訪というこの小さな地方にもこうした豊かな伝説や伝承が残されたいること、次世代にも伝えていきたいですね。
2007年03月09日 10:10
富士山のご祭神は、神代の昔っから気性が荒いことで有名ですもんね。(なんせ、産屋に火を放っちゃうんだから)
身近に、縁の名まえの子がいるんだけど、
このお話、教えてやろうっと。
2007年03月10日 00:50
◆◆ 次世代にも伝えていきたい...

aostaさん、
はい、そのような気持ちからご奉仕させていただくことに致しました。(笑)

信濃教育会の出版ですね。
長野県の教育が範とされましたのも、昔のお話となってしまいました。私の子供の頃、既に"どこが教育県なの?"という感じがしましたが、共通一次試験(現センター試験)の県別平均点で長野県が下位ベストスリーになっても"長野は教育県である"と仰っていた偉い先生がいました。どこを見てものを言っているのでしょうね。巷では、ソープランドが県下に一軒もないことをイコール教育県だと勘違いしているのではと言われていましたのに・・・。

オソマツ。
2007年03月10日 00:55
◆◆ 産屋に火を放っちゃうんだから...

Suzukaさん、本当ですか?
富士山のあの美しさは、憧れの対象であり、それが過ぎると嫉みとなるのでしょうか。やっぱり女性だよな~。

縁の名前のお子様には、お子様の年齢を加味なさった上で、場合によりましては、良いものだけお伝え下さるか、そのままそっとしておいてあげて下さいな。(笑)
2007年03月14日 00:31
じつは一ヶ月ほど前、こちらでも常連の方のブログで、梨木香歩さんのお話がでたときから計画を立てていたのですが。
たぶん、同じ方と思われるお話なので、TBさせていただきますね。
こちらのご本は未見なのですが、浅間神社におまつりされているのは、コノハナサクヤヒメ。
怒って、海に帰ったはずなのにネ。
2007年03月14日 20:43
◆◆ コノハナサクヤヒメ... Suzukaさん

まぁ、なんて美しいお名前の神さまでしょう。まるでSuzukaさんのよう。(まだ会ったことありませんが ・・・ *o_ _)oバタッ )

素敵なお話、そして、素敵な朗読でした。
ありがとうございます。

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