『小さな村のクリスマス』 (21)  ~キリ編~


もう既にお気づきだったかも知れませんが、
”つづく”の文字に、リンクを貼りました。
これを辿りますと、ストレスなく、
読み通すことができます。
大きなお世話ってか?
(o^<^)o クスッ


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 土曜日の特別練習が終わった後、僕は感動しているだけじゃなかった。帰宅して録音をアップしたあと、あと一週間で調整できるところはどこかを考えていた。

 (1) 各フレーズの入り、特に最初の入りは、アグネスさんの指摘が効いた
   のか、素晴らしくよくなった。そして力みもなくなっていた。
 (2) 言葉も以前に比べるとはっきりと聴こえてくる。
 (3) イエス=キリストを十字架につける4つの音、バスのトーマス君も
   頑張っているのがわかる。だけどもう少しほしい。
 (4) 走る。これは伴奏の三連符がなくなる箇所、2番の出だしが顕著
   である。伴奏がゆっくりになったのではない。やっぱり歌が走ってる。
 (5) 音の切り方がちょっと乱暴か。特に最後の音。アクセントいらない。
 (6) 大きな音楽の流れは出てきた。これが一番嬉しいな。
 (7) ワルツは・・・・・ちょっと高度過ぎたかなぁ。
 (8) ソプラノの装飾音の歌い方は、本当にうまくなった。
 (9) アルトに与えられた、綺羅星のような音は、とてもよくなった。附点
   の歌い方も、うま~く抜いて歌えるようになった。
 (A) テノールに与えられた、内声の特別な音も、周りにつられてない。
 (B) バスの全ての音がきちんと聴こえる。たった一人なのに。
 (C) 伴奏はいつも同じところで間違える。おっと、これは録音だった。

 僕は、最後の練習の課題を、(3)(4)(5)の三つとした。(7)は捨てた。これはもっと時間を掛けて、いろんな歌を歌いながら習得していこうと決めた。

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 土曜日の特別練習が終わった後、キャスリーンさんとキリちゃんの母娘のうち、具合が悪いのはキャスリーンさんであり、キリちゃんはピンピンしていることがわかった。明日はキリちゃんの洗礼前の最後の礼拝。僕は、病床のキャスリーンさんに代わって、明日の朝キリちゃんを迎えにいくことを、キャスリーンさんに提案してみた。電話を入れると、既に同じことを心配したエーリッヒ・クライバー牧師から、同じ申し入れがあったようだ。でも、牧師先生は礼拝の朝はご準備にあれこれ気を遣われるに違いない。朝は何か突然のトラブルの連絡も入ったりするかもしれない。僕はキャスリーンさんに、先生のご心配は僕が支援するからと伝えるよう図った。

 さて、日曜日の朝。僕は待ち合わせの場所に、約束の時間に5分遅れて到着した。僕の体内時計では+5分はジャストに等しかったが、一応遅れそうな旨を電話で伝えておいた。キャスリーンさんにお悔やみ・・・ではなくて、お見舞いを告げた後、キリちゃんを預かって助手席に乗せ、教会までの道を案内してもらった。僕は道を知らないでもなかったが、キリちゃんが毎週通る道を教えてもらうことにした。

 ドン・ホセ 「この道を行くと、どこかの交差点に出るのかな? どこを曲がればいいか、教えてね。」
 キリちゃん 「あ、大丈夫です。曲がってはいますけど、道なりに走ってもらえば、メインの道路に出ます。」

 僕はちょっと驚いた。"道なり"という言葉をこの子はよく知っているなぁ。自動車の運転免許をとって、自分で車を運転するようになると、"道なりに進む"という言葉を使うようになる。僕はこの言葉が好きだった。右に曲がって左に曲がってなんて必要ない。道なりに進むというのは、実に心得た言い方だからである。だけどキリちゃんはまだ無免許だ。こうした言葉を知っているのは、読書家のお母さんの影響かな。僕はキリちゃんの言葉と、ハッキリした言葉遣いに、ちょいと感動した。

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 礼拝の後の練習は、そのまま2階のギャラリーでおこなった。
 僕は用意してきた最後の3つの注意点について話をした。

 ドン・ホセ 「まず伝えたいことがあります。これはミレッラさんと僕の名誉のために言いますが、昨日家に帰って録音を聴き直してみた結果、みんなが走るところ、あれは伴奏に3連符がなくなったためにミレッラさんの伴奏が突然ゆっくりになったのではありませんでした。ミレッラさんの伴奏はインテンポでした~!」

 ミレッラさん 「ほらね~。」

 かなりオーバー・アクションだったが、彼女は名誉を取り返して満足そうだった。とっても誇らしげな表情と仕草が、みんなを笑わせた。そんなお母さんを目の前で見たシャルロットちゃんとヒラリーちゃんが、とても嬉しそうだった。

 ドン・ホセ 「ここは伴奏に3連符がないので、伴奏を聴きづらいですよね。そこで、トーマス君に活躍してもらいます。トーマス君、楽譜を見て。君のパートだけがリズムを刻んで歌っているのがわかるよね。そこで、君には今までより少しハッキリと歌ってもらう。こんな風にアクセントをつけてもらえるかな。♪こ>お>こ> ろ>お>に> 主>う>イェ> ス>を~♪」

 アグネスさん 「トーマス君、君だけが頼りやからな。」
 トーマスさん 「責任重大ですね。でも頑張ります。」

 ドン・ホセ 「みんなはトーマス君のバスの音をよく聴いて歌って下さいね。僕も伴奏がよく聴こえないから、トーマス君が頼りです。」

 エリザベートさん 「え~、私、指揮者しか見てないよ~。」
 ドン・ホセ 「(=^_^=) ヘヘヘ」

 ドン・ホセ 「次。トーマス君。」
 トーマスさん 「また僕なの?」
 ドン・ホセ 「そう。最後の仕上げはバスが肝心なの。バスがしっかりしている合唱は、とても安心して聴いていられるんだよ。例の4つの音、今までよりもっとはっきり打ち込んでほしい。」

 僕も本番ではそこだけ一緒にバス・パートを歌おうと決めていたけれど、それは彼には内緒にしておいた。ここは彼の責任感が大事なのである。

 ドン・ホセ 「3点目は、みんなに言えるんだけど、音の切り方が色気がないんだな。特に最後の最後の音。♪主より離れじ~イ!って聴こえるんだな。ここは3拍きっちり伸ばすんだけど、次の小節の頭、つまり4拍目の頭で、アクセントなしに音を切りたいんです。そしてこの音だけ、自然なディミニュエンドではなくて、最後まで同じ大きさの音で歌ってほしいって言ったのは、"離れじ"という、強い意志を表しているからです。"絶対に離れません!"と歌うんだから、尻すぼみじゃ困るよね。」

 エリザベートさん 「なるほど~、そういうことかぁ~。」
 トーマスさん 「説得力あるなぁ~。」

 ドン・ホセ 「じゃぁ歌ってみましょう。」

(  )3~♪♪♪  (  )3~♪♪♪  (  )3~♪♪♪


 こうして、短い仕上げの練習が終わった。

 ドン・ホセ 「そうだよ、これがリハーサルじゃん。ゲネプロじゃん。本番ではきっと僕は緊張するだろうなぁ。泣いちゃうかもしれませんけど、僕が崩れてもみんな歌い通してね。」

 アグネスさん 「ドン・ホセさん、私は緊張したり、あがったりせんよ~。なぜなら私は歌っているのではなくて、神さまを讃美しているからよ~。神さまは何でもご存知やから、神さまの前で繕ったりしないからです。」

 彼女の言葉は薀蓄がある。彼女は練習の後に必ずお祈りをして下さる。そして、お祈りの中で、気弱なドン・ホセが、彼がもっている全てを出し切れますようにと、天のお父さまにとりなして下さる。ありがたいことである。そして練習がはけた後、きっと僕を励ますために、こうも言ってくれた。

 アグネスさん 「いつも質の高い音楽をして下さって、感謝してます。」

 標準語だった。

 ドン・ホセ 「はぁ~ぁ~。 ヽ(°Q。)ノ ハラホロヒレハレ」

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 後日。

 体調不良で最後の練習を休まれたキャスリーンさんから電話があった。最後の練習に出られなかったというのは、彼女にとってきっと不安だったろうと思い、僕が練習で伝えたことを話そうと思った矢先、彼女から言葉があった。

 キャスリーンさん 「私は何も訊かなかったんですが、キリが練習でドン・ホセさんに言われたことは、××だったよって話してくれたの。だから私は安心して歌えるわ。」

 キリちゃん、あんたもヤルじゃん!
                                        つづく



【注:登場人物・団体はすべてフィクションです。】
~~~ 感動的な本番に向かって、いよいよ大詰め! ~~~

【写真】 教会のある原村のペンション・ヴィレッジのイルミネーション。


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この記事へのコメント

2007年01月09日 07:40
>「私は何も訊かなかったんですが、キリが練習でドン・ホセさんに言われたことは、××だったよって話してくれたの。だから私は安心して歌えるわ」

出られなかった最後の練習。そのあとの一週間にんに何をすればいいかPapaplinさんの言葉を娘はしっかり伝えてくれました。
その一言でどんなにほっとしたことか。

キリは私と違って、そう言葉数の多い方ではありません(笑)。でも、私以上に考えているなと思うことが良くあります。そして良く見ています。
2007年01月10日 00:35
◆◆ 私以上に考えているなと... aostaさん

貴母娘のことを、今後は、葦母娘と呼びましょう。
aostaさんより考えているってことは、正体はカンガルーってことですね? 何のこっちゃ。

*o_ _)oバタッ

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