『小さな村のクリスマス』 (19)  ~エーリッヒ牧師編~


 おーい、クレド聖歌隊のみなさま、たった20分の練習で、ドラマ3つは勘弁してくださ~い。物語が追いつきましぇ~ん。もうよ~くわかりました。みなさんの素晴らしさが。だからもう・・・。

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 12月16日(土) 19:30。いつものように、時間ぎりぎりに駆け込むドン・ホセであった。 ・・・ おぉこれは定型句として使えるに違いない。コピーしてメモ帳に貼り付けておこう。でも、もうちょっと気の利いたムーディな書き出しはないものか。そこは理科系出身の哀しさである。でも、たまには気取ってみたいもんだ。


 村に、ゆるやかな夜のとばりが降りる。茜色の空が、天を埋め尽くす星の夜空と化す頃、師走ともなれば、大気は容赦なく頬を刺す。教会の大きな扉に肩を丸めて足早に歩み寄るドン・ホセ。扉の向こうの灯かり、みんなのぬくもりが恋しい。(ダメだ、息が詰まる、もはやこれまで!)

 僕はみんなの進度に驚いていて、今日は録音をしたかった。そしてそれをみんなに聴かせたかった。だからいつもよりちょっとだけ早く行った。そう3分くらい。(笑)

 録音機材を海外旅行用の頑丈なトランクに詰め込んで僕は教会の重い扉を開いた。中は既に暖かだった。この秋に新調された床暖房のボイラーの配管工事が思うように捗らず、苛立ちを隠せなかったエーリッヒ・クライバー牧師が、ようやく笑みを浮かべて僕を迎え入れて下さった。

 ドン・ホセ 「わぁ、暖かいや。先生、やりましたね。」
 エーリッヒ牧師 「洗礼に間に合いましたね。神さまに感謝します。大きな荷物ですね。」
 ドン・ホセ 「はい。今日から住み込みで働かせて頂きます。」
 エーリッヒ牧師 「歓迎しましょう!」

 二人で顔を見合って笑った。

 スウェーデン人、アメリカ人のエンジニアから、訳のわからない配管図面を見せられて、日本の地元の工務店との橋渡しにちょっとだけ通訳のお手伝いをしたドン・ホセだったので、暖かな教会に入ったときに、すぐそれに気づいて嬉しかった。石油ストーブとファンヒーターを総動員していた礼拝堂。とてもスッキリした。何よりも、空気が汚れないのが歌うものにとってはありがたい。

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 さて、すでに礼拝堂にはみんな集まっていた。折角3分も(!)前に到着したというのに、僕が最後かい? あれ、いつも早く来られているキャスリーンさんとキリちゃんの姿が見えないぞ。そう思ったときに、アグネスさんがタイムリーに口を開いた。

 アグネスさん 「キャスリーンさん親子は何かあったの?」
 ミレッラさん 「体調を崩されたようなの。お腹が痛いって。今日は行かれないって電話があったのよ。」
 トーマスさん 「ノロ・ウィルスじゃないの? 流行っているようだし。」
 ドン・ホセ 「あれは空気感染するから、来ない方がいいな。」

 聖歌隊では、キャスリーン親子はすっかりノロ・ウィルス感染と断定されていた。あ、僕が断定したんだった。おや、よく見たら、定刻30分遅れが彼のスタンダードだと事前にエーリッヒ牧師から聴いていたヘルマンさん、今日もまだ来てないなぁ。とそこへ、エーリッヒ牧師が礼拝堂の大きな扉を開かれて登場された。

 エーリッヒ牧師 「皆さんにお伝えしなくてはならない深刻なことがあります。」

 みんなは、今日僕が録音の準備があることを知っていて、顔を曇らせた。

 エーリッヒ牧師 「ヘルマンさんに僕が今電話をしたのですが・・・。ヘルマンさんが直接電話に出られて・・・。これから向かいますって。」

 エリザベートさん 「エーリッヒ先生、驚かさないでよ~。」
 エーリッヒ牧師 「(笑)」

 エーリッヒ牧師は、まじめな顔をして、思いっきりジョークを仰る。僕など、真剣に耳を傾けているのに、あっという間にジョークを言われ、真剣な表情で聴いていた自分が情けなく思ったことがしょっちゅうある。してやられた!

 しかしながら、僕らの心配を察知して、聖歌隊員でない(当たり前か)エーリッヒ牧師は、時間に正確な性格を最大限に活かされてか、ヘルマンさんを電話で呼び出して下さったのだ。何というチームワークだろう。先生、感謝! 僕は『これで今日は録音ができる!』とホッと一息ついたのだった。

 今日が二度目の伴奏つきの練習。それで録音に至るなんて信じられない。僕は、新しいことは何も言わなかった。今までみんなに伝えてきたことを確認しただけだった。アグネスさんが、うま~く僕をサポートしてくれた。ワルツを思い起こして、みんなに、あのステップを踏ませてくれた。かくして、今までの注意点を確認しながら練習をしているところに、無事ヘルマンさんも到着し、みんなから一言二言からかわれながら、練習に加わった。パン屋さんであるヘルマンさんは、お仕事の事情で仕方なく集合時間に遅れてしまうこともわかった。そして彼は次回の練習から以降、集合時間前に現れるようになったのである。「だって、みんなすごく一生懸命だからさぁ。僕だけ遅れちゃ申し訳なくて。」 彼の言葉に僕は、無理されて頑張っているのと、家族のサポートを感じた。そして録音。-2名をちょっと残念に思ったが、仕方ない。




 ここまで来た。信じられない。僕は指揮をしながら目がちょっと潤んでた。歌い終わった後、思わず拍手をしたのも僕だ。こんな僕に、全幅の信頼を寄せてついてきてくれたみんなに感謝している。

 シャルロットちゃん 「ねぇ、それ今聴けるの?」
 ドン・ホセ 「ああ聴けるとも。ちょっと待ってね。」

 録音は大失敗だった。きっとマイク入力の設定を間違ってしまったのだろう。録音レベルが非常に低かった。僕はレコーダーのアウトプットを最大にし、スピーカー代わりのCDプレイヤーのボリュームを最大にした。それでも、みんな息を殺さないと、自分の声が聴こえない程度の音量だった。

 シャルロットちゃん 「きれい!」
 エリザベートさん 「これ本当に私たちが歌ってるの?」
 エヴァさん 「ヨーロッパの大聖堂のようなところで録音されたCDを聴いているみたいですね。」

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 僕は、エヴァさんに、心の中で語りかけていた。

 『エヴァさん。あなたの声、歌っているときも、そしてこの録音でも、しっかり聴こえていましたよ。あなたは一つ乗り越えた。あなたの芯のある艶やかな声は、実はソプラノ・パートの核なんです。ソプラノの核ってことは、このクレド聖歌隊の核ってこと。やっとクレド聖歌隊の音が戻ってきましたね。』


 ヘルマンさん 「ちょっと音が上ずっているよね。みんな興奮して歌っているから、音が上がっちゃうんだと思うんだ。少し落ち着いて行こうよ。」

 ヘルマンさんにも語りかけてた。

 『ヘルマンさん。実に冷静に分析するあなたの耳を頼りましょう。僕はもうウルウル・モードに入っちゃったので、指揮中は冷静に聴けていません。前回の練習では、ヘルマンさんはまだテノールの音が取れていませんでしたよね。今日は聴こえていましたよ。頑張りましたね。そして、全体のバランスや音程、音色まで、もう耳が行っているのですね。ありがとうございます。』


 たった今録音した演奏を聴き終わって、エーリッヒ牧師が最高の笑顔を浮かべ、椅子から立ち上がって拍手され始めた。みんながそれに続いた。先生は僕らの練習をずっと見守ってくれた。そして、僕の手をとって、握手して下さった。帰ったら、何としてもこの録音を、読者の方にも聴いてもらいたい!

 僕は家路を急いだ。
                                        つづく



【注:登場人物・団体はすべてフィクションです。】
~~~ 感動的な本番! 物語は着実に本番に向かって進む ~~~

【写真】 教会のある原村のペンション・ヴィレッジのイルミネーション。


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この記事へのコメント

2007年01月05日 08:27
明けましておめでとうございます。
今朝もまた素晴らしい歌声で1日が始まりました。本当に上手と言ったら失礼になるかもしれませんが、自分たちの事を考えたら天と地の差なので、もう拍手喝采です。
ヨーロッパのどこかの教会で聴きましたが極自然に皆さんが上手く歌っているのに感激したときに似ているかしら。
指導者の力量ですね。
今年もまたたくさんの歌声を楽しみに、宜しくお願いいたします。
2007年01月05日 08:36
◆◆ 極自然に皆さんが上手く歌っている...

tonaさん、
初春のお慶びを申し上げます。

そうですね、極自然に...そうかもしれません。彼らが潜在的に備えていたものを僕は引き出したに過ぎないのかもしれません。大そうな鍵はかかっていませんでしたので。

(^-^ ) ニコッ
2007年01月09日 07:23
おはようございます。

思いが家図も最後の練習に参加できなかったことは本当に残念と言うか、悔やみきれない後悔でした。
まだ、一週間あると思っては見ても、フルメンバーで歌える最後の機会でした。
 娘だけを送り出して(その節は送り迎えありがとうございました!!)一人ベッドで横になっていても気が気ではありませんでした。

エーリッヒ牧師、いつも柔和な笑顔と軽妙なジョークで雰囲気を和やかにしてくださいます。
練習の時の、時間が許す限り同席してくださり、その暖かな笑顔で無言のうちにも私達を励ましてくださいましたこと、本当にありがたかったと思います(微笑)。
2007年01月10日 00:26
◆◆ 笑顔と軽妙なジョークで... aostaさん

これが、何とも言えませんでしたね。
僕のような新顔には、どこまで本気で仰っているのか、よく戸惑ったものです。いつの間にかジョークに代わっていても、それと気づかなくて、あ~! なんてね。でも、場を和ます天才でしたね。

aostaさんの最後の一週間の頑張りは、目を見張るものがありましたよ。素晴らしい!

イイネ |ー^)b

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